一人三脚(いちにんさんきゃく)/SF&ホラーショートショート選②
裂けたカラダ
”おい‼何があったんだ―⁉”
わずか数秒で、他の看守2人が119号房の前に駆け付けると、暗い床にへたり込んだ最初の看守が唇を震わせ、房の中を指さしていた
あとからの二人は、すでに尋常ならざる事態と察知したせいか、その指さす方を恐る恐る見入った
すると…
***
”なんなんだ、こりゃあーー!!!”
二人のうちの一人が思わず大声で叫んだ
房の中のムツオは、かつて見たことのない、大股開きのがに股状態を晒し、仰向けで倒れていたのだ
両足は何かに引き裂かれたようで、赤黒い大量の血がどくどくと音をたてるかのように独房の床を舐めるように流れ出ていた
”救急車だー‼早く!”
この時点では何事がおこったのかと、他の房でも鉄格子の間に顔を押し込み、受刑者たちも騒然となっていた
やがて救急車が到着し、両の脚が股下から10センチ以上裂けている血まみれのムツオを担架で運び出すのだが…
”すでに呼吸が停止しています!出血量がこれじゃあ、息を吹き返しても出血死します!とにかく搬送しますよ”
”は、はい!お願いします…”
5人がかりの救急士は、酸素吸入マスクを装着させたムツオを手際よく独119号房から搬出したのだが…
押田ムツオは病院に到着する前に死亡した
***
”…昨日、東京都○○市の△△刑務所独房内で、収監中の男が突然、叫び声をあげていたため職員が駆け付けると、男は両股から大量の血を流しており、救急車で搬送されましたが、まもなく死亡しました”
”…直接の死因は急性の心不全とのことですが、なぜ、両足が股間から15センチ近くも裂けれていたのか、警察では詳しく調べています。房内に刃物はなく、監視カメラはノイズが激しいため…”
この奇異極まる独房内変死事故は、結局、ムツオの股間が裂かれた原因は不明という決着で落ち着いた
だが、実際には監視カメラはその一部始終を捉えていたのだ
***
”ぶちゅっ…、ぐにゅっ…、ぐいん…”
監視カメラの前で、数人の検視官は固唾を飲んで身を乗り出していた
”おい、これはどういうことだよ!!”
彼らの目の前では、まさに目を疑うようなグロテスク極まるまるでCG映像さながらの超常現象が生々しく展開されていた
その絵柄は言語の例えようが無いほど、凄まじいものだった
角度的に不鮮明ながらも、ムツオの左右の脚が何かの力でグイグイと多方向へ捻じ曲げられながら引っ張られていくのだ
その目を疑う映像は10秒ちょっとで、正視不能の局面が訪れる
”ぶちゅっ…、ぐいっ…”
"ぎゃ~~!!!”
ついにムツオの断末魔たる今生最後の一声とともに、彼の左右の股間はほぼ同時にどっと引き裂かれたのだ
見えない何モノかの力によって…
***
”これは何なんだよ‼こんなの、世間に知らせられないだろ!”
検視官たちは全身にトリハダをたて、中には吐き気を催す者もいた
”…北島君、監視カメラは不鮮明で分析不能だったとしよう。それしかない…”
”わかりました。それで、もう一つ、これも信じがたい事象なんですが…”
”何だって言うんだ!まだ何か、科学じゃ説明できない検視結果があったのか、北島君!”
北島の上司は両手で髪の毛を搔きながら、ヒステリックに質した
***
それは耳を疑うような報告であった
”はー⁉…押田の足のサイズが左右違うってのか?5センチも…”
”はい…。カレが収監される際に支給された上履きは検寸どおり、両足とも26.5だったんですが…。死体の右足は確かに21.5センチで、5センチ縮んでたんです”
”ふう…、もう沢山だよ、北島君…。そこまで気付いてくれなくてもよかったんだがね”
もう北島の上司はウンザリと言った面持ちで、もはや投げやりモードに入っていた
***
”なにしろ、仰向けのホトケじゃあ、一目で気が付きましたので…。一応、検寸してみたんですが…。どうします?これも世間には伏せますか?”
”あたりまえだろ!調書にも残さないでいい。どうせ、真相などわかりゃしないんだ、本件はな…。せいぜい、精神が分裂作用を起こし、体内ホルモンが血管を圧縮させ、ごく稀な自己破壊現象が現れたって、そんなとこで留めるしかないよ、北島君!”
”はあ…”
結局、押田ムツオの謎に包まれた奇怪な死の真相は世間に公表されることはなかった
***
その後、都内某所の△△刑務所、119号房に収監された受刑者は、決まって、ある夢にうなされたという
”…だから、言ったのに。こんなトコ、来ちゃダメだって。バカだねー”
声変わり前の子供が発するその声は、姿はなく、ただ地面にほっこりと佇む小さな足あとから聞こえてくるだけであった
ー完ー
わずか数秒で、他の看守2人が119号房の前に駆け付けると、暗い床にへたり込んだ最初の看守が唇を震わせ、房の中を指さしていた
あとからの二人は、すでに尋常ならざる事態と察知したせいか、その指さす方を恐る恐る見入った
すると…
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”なんなんだ、こりゃあーー!!!”
二人のうちの一人が思わず大声で叫んだ
房の中のムツオは、かつて見たことのない、大股開きのがに股状態を晒し、仰向けで倒れていたのだ
両足は何かに引き裂かれたようで、赤黒い大量の血がどくどくと音をたてるかのように独房の床を舐めるように流れ出ていた
”救急車だー‼早く!”
この時点では何事がおこったのかと、他の房でも鉄格子の間に顔を押し込み、受刑者たちも騒然となっていた
やがて救急車が到着し、両の脚が股下から10センチ以上裂けている血まみれのムツオを担架で運び出すのだが…
”すでに呼吸が停止しています!出血量がこれじゃあ、息を吹き返しても出血死します!とにかく搬送しますよ”
”は、はい!お願いします…”
5人がかりの救急士は、酸素吸入マスクを装着させたムツオを手際よく独119号房から搬出したのだが…
押田ムツオは病院に到着する前に死亡した
***
”…昨日、東京都○○市の△△刑務所独房内で、収監中の男が突然、叫び声をあげていたため職員が駆け付けると、男は両股から大量の血を流しており、救急車で搬送されましたが、まもなく死亡しました”
”…直接の死因は急性の心不全とのことですが、なぜ、両足が股間から15センチ近くも裂けれていたのか、警察では詳しく調べています。房内に刃物はなく、監視カメラはノイズが激しいため…”
この奇異極まる独房内変死事故は、結局、ムツオの股間が裂かれた原因は不明という決着で落ち着いた
だが、実際には監視カメラはその一部始終を捉えていたのだ
***
”ぶちゅっ…、ぐにゅっ…、ぐいん…”
監視カメラの前で、数人の検視官は固唾を飲んで身を乗り出していた
”おい、これはどういうことだよ!!”
彼らの目の前では、まさに目を疑うようなグロテスク極まるまるでCG映像さながらの超常現象が生々しく展開されていた
その絵柄は言語の例えようが無いほど、凄まじいものだった
角度的に不鮮明ながらも、ムツオの左右の脚が何かの力でグイグイと多方向へ捻じ曲げられながら引っ張られていくのだ
その目を疑う映像は10秒ちょっとで、正視不能の局面が訪れる
”ぶちゅっ…、ぐいっ…”
"ぎゃ~~!!!”
ついにムツオの断末魔たる今生最後の一声とともに、彼の左右の股間はほぼ同時にどっと引き裂かれたのだ
見えない何モノかの力によって…
***
”これは何なんだよ‼こんなの、世間に知らせられないだろ!”
検視官たちは全身にトリハダをたて、中には吐き気を催す者もいた
”…北島君、監視カメラは不鮮明で分析不能だったとしよう。それしかない…”
”わかりました。それで、もう一つ、これも信じがたい事象なんですが…”
”何だって言うんだ!まだ何か、科学じゃ説明できない検視結果があったのか、北島君!”
北島の上司は両手で髪の毛を搔きながら、ヒステリックに質した
***
それは耳を疑うような報告であった
”はー⁉…押田の足のサイズが左右違うってのか?5センチも…”
”はい…。カレが収監される際に支給された上履きは検寸どおり、両足とも26.5だったんですが…。死体の右足は確かに21.5センチで、5センチ縮んでたんです”
”ふう…、もう沢山だよ、北島君…。そこまで気付いてくれなくてもよかったんだがね”
もう北島の上司はウンザリと言った面持ちで、もはや投げやりモードに入っていた
***
”なにしろ、仰向けのホトケじゃあ、一目で気が付きましたので…。一応、検寸してみたんですが…。どうします?これも世間には伏せますか?”
”あたりまえだろ!調書にも残さないでいい。どうせ、真相などわかりゃしないんだ、本件はな…。せいぜい、精神が分裂作用を起こし、体内ホルモンが血管を圧縮させ、ごく稀な自己破壊現象が現れたって、そんなとこで留めるしかないよ、北島君!”
”はあ…”
結局、押田ムツオの謎に包まれた奇怪な死の真相は世間に公表されることはなかった
***
その後、都内某所の△△刑務所、119号房に収監された受刑者は、決まって、ある夢にうなされたという
”…だから、言ったのに。こんなトコ、来ちゃダメだって。バカだねー”
声変わり前の子供が発するその声は、姿はなく、ただ地面にほっこりと佇む小さな足あとから聞こえてくるだけであった
ー完ー