桜のティアラ〜はじまりの六日間〜
 「あのね、アレン昨日倒れたの。隣の広間に入ってきて、私が声をかけたらふっと意識を失くして」
 「あー、なんとなく思い出した。そうだ、確か夕食前に一言、美桜に挨拶しに行ったんだ」
 「そう。そこで倒れて、メイソンがここに運んでくれたの。お医者様にも診てもらって、過労だろうって。熱も高かったんだけど、明け方くらいに平熱に下がったのよ」
 「まあ、美桜様、そんな。ずっと付きっきりで看病してくださったのですね。なのに私ときたら…」
 「いやそれが、私もそのあと寝ちゃっててね。あはは」
 「ちょ、ちょっと待って」
 
 クレアと美桜の会話に、アレンは手を差し出して割って入る。

 「美桜が看病してくれたの?一晩中?」
 「ええ、そうですわ。タオルで冷やしてくださったり。ずっと坊ちゃまのそばについていてくださったのです」
 「そ、それじゃあ、その、このガウンは?」
 
 胸元に手を置いて、アレンがうつむき加減で聞く。

 「美桜様が着替えさせてくださったのですわ」
 「クレアも手伝ってくれてね。汗びっしょりだったから」
 
 とたんにアレンは、自分の顔が赤くなるのが分かった。

 (なんだって、美桜が?一晩中俺に付きっきりで、しかも着替えを?)
 
 想像しただけでその場にいたたまれなくなり、ベッドから降りるとアレンはそのまま急いでドアへ向かう。

 「アレン!そんな急に動いたら」
 「そうですよ、まだ病み上がりなんですから」
 「大丈夫だ」
 
 バタンとドアが閉まり、残された二人は顔を見合わせる。

 「どうしたのかしら、あんなに急いで」
 「本当に。美桜様にお礼も仰らずに」
 「あれじゃない?トイレに行きたかったとか?ずっと寝てて行ってなかったから」
 「まあ、そうでしょうかね?」
 
 もう一度首を傾げてから、クレアは気を取り直したように美桜に向き直った。

 「美桜様、本当にありがとうございました。私から心よりお礼申し上げますわ」
 「ううん。すっかり元気になってほっとしたわ。クレアもお疲れ様でした。今日は早めに休んでね」
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