桜のティアラ〜はじまりの六日間〜
 「あ、そうそう、美桜様」
 
 アレンと一緒におかゆを食べたあと、日本茶でくつろいでいた美桜に、何かを思い出した様子でクレアが声をかけた。

 「こちらを」
 差し出したのは、昨日のフルートケースだ。

 「ああ、そうだった。美桜、吹いてみてくれない?ちゃんと調整出来てるか」
 
 ケースに目をやってから、アレンは美桜に頼むように言う。

 「うん、でも…。いいの?」
 
 戸惑い気味の美桜を見るとアレンは立ち上がり、クレアからケースを受け取って美桜に手渡した。

 「頼むよ」
 
 にっこり笑うアレンからケースを受け取ると、美桜はそっとふたを開けた。

 美しく輝くフルートは、まるで早く音を出したがっているように見える。

 美桜は慎重に手に取り、丁寧に組み立てていく。
 本来の形になったフルートは、キラキラと光を反射してとても綺麗だ。

 美桜は吸い寄せられるように口元に構えると、すうっと深く息を吸ってから、指をどこも押さえない開放の音を出してみた。

 柔らかくどこか甘い響きが部屋中に広がる。

 「わあ…」
 
 クレアが言葉にならない声を上げた。

 (なんて良く響くのかしら)

 美桜は、今まで吹いたことがない程の綺麗な音を出すこのフルートを、もっと吹いてみたくなった。
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