桜のティアラ〜はじまりの六日間〜
 今度はゆっくりと、ドの音から音階を吹いてみる。

 低い音は厚みを持ってしっかり響き、高い音は華やかで澄んだ音色だ。

 「美桜様、何か曲を吹いていただけません?」
 
 クレアがそう言うと、隣のアレンも頷く。

 (曲、何がいいだろう)
 
 少し考えてから顔を上げると、美桜はすっと背筋を伸ばして息をたっぷり吸いこみ、歌うように奏で始めた。

 (アメイジング・グレイス)
 
 曲名はクレアもアレンもすぐに分かった。

 美桜の音色は優しく温かく、全てを包み込んでくれるようだ。
 それでいて、どこか力強い。

 悲しみ、痛み、それらをそのまま全部受け止め、そしてそこから希望を見出すような…
 
 クレアは自然と胸が熱くなり、涙がこみ上げてきた。

 やがて曲の最後の音が響く。

 終わりかと思ったその時、後ろからピアノの音色が流れてきた。

 振り向くと、いつの間にかアレンがピアノに向かっている。

 何年ぶりなのだろうと、クレアは驚いてその姿に見入った。
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