桜のティアラ〜はじまりの六日間〜
 ダン!と大きな音がして、仁はびくっと体をこわ張らせた。

 顔を上げると、入口のドアに拳を打ち付けた状態でアレンが立っていた。

 「アレン!大丈夫なのか?昨日倒れたって」
 
 そこまで言って言葉を止める。

 こちらを見るアレンの表情は、今まで見たことがないほど怒りに満ちていた。

 「…見損なったぞ、仁」
 
 絞り出すように言うアレンの声は、本当にアレンなのかと疑うほど低かった。

 「な、何を」

 返す言葉が出てこない仁に、アレンは固い口調のまま続ける。

 「美桜は、お前が相手をする女の子達とは違う。お前だってそれくらい分かっていたんじゃないのか?それなのに」
 「…お前に、お前に何が分かる」
 
 今度はアレンが言葉を止めた。

 うつむいた仁が呟くように吐き出した言葉は、感情を必死に抑えようとしていた。

 「お前に何が分かるって言うんだ。俺が一体どんな気持ちで!」
 
 気付くと仁は、あっという間にアレンに飛びかかり、胸元を掴み上げてドンと壁に押し付けていた。

 「俺が一体どんな気持ちでいたと思うんだ!今までずっと、俺はずっと…」
 
 そう言うと仁はうつむいて肩を震わせる。
 まるで何かを堪えるように。

 やがて仁は乱暴にアレンから手を離すと、そのまま部屋を出て行った。

 残されたアレンは、掴まれた胸元のシャツを握りながら呆然と立ち尽くす。

 (まさか、あいつ…)

 ゆっくりとソファに目を向ける。

 (知らなかった。あいつ、美桜を…)
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