桜のティアラ〜はじまりの六日間〜
 「まあ、美桜様。どちらにいらっしゃったのですか?」
 「あ、ちょっとぶらぶらしてただけよ」
 
 廊下の角を曲がったところでクレアとぶつかりそうになり、美桜は慌てて取り繕った。

 クレアは首をひねって疑いの目を向けてくる。
 
 メイソン達と別れて広間でお茶を飲んでいた時に、ケーキをサーブしてくれたフレディが、料亭で習った和食の味付けがどうも再現出来ないとこぼし、美桜はこっそりクレアの目を盗んで厨房に行ったのだった。

 用事を済ませて広間に戻ったクレアは、美桜がいないことにさぞかしびっくりしただろう。

 「ごめんなさい、急にいなくなって」
 
 美桜が謝ると、クレアは、いえ、そんなと恐縮した。

 「それより、そろそろ昼食の時間ですわ。旦那様や坊ちゃまも間もなく広間にいらっしゃいます」
 「そうね、急ぎましょ」

二人で肩を並べて歩き出した。
< 131 / 238 >

この作品をシェア

pagetop