桜のティアラ〜はじまりの六日間〜
 「クレア、最後は笑ってお別れしましょう。ね?」
 「ええ、ええ」
 
 そう言って頷くものの、どうにもクレアの涙は止まらない。

 「クレア、ささやかなんだけど、受け取って」
 
 そう言って美桜は、ポケットから小さなケースを取り出した。

 「まあ、なんですの」
 ピタッと涙を止めて、クレアが目を見開く。

 「私からクレアへ。お世話になったお礼」
 
 そう言ってケースからカメオブローチを取り出し、クレアの胸元につける。

 「まあ、こんな素敵なブローチを。私なんかのために」
 
 手でブローチをそっと触りながら、また泣き始める。

 「もうそんな、大げさな。時々これを見て、私のことを思い出してくれたら嬉しいわ」
 
 クレアは泣きながら何度も頷く。

 「クレア、本当にありがとう。優しくて温かくて、私の本当のおばあさんみたい。って言ったら怒る?そんな歳じゃないわって」
 
 美桜がそう言って笑うと、クレアもつられて笑い出した。

 ようやく落ち着くと、二人は最後にしっかりと抱き合い、笑顔で頷く。

 「じゃあ行こうか」
 
 うん、とアレンを振り向いて、美桜は助手席に乗り込んだ。

 メイソンがゆっくりとドアを閉めてくれる。
 
 ありがとうと声をかけると、メイソンはいつものお辞儀ではなく、にっこりと笑った。
 
 運転席のアレンがエンジンをかけると、美桜は窓から顔を出して、皆に手を振った。

 「美桜様、お元気で!」
 「ありがとう!みんなも」
 
 ゆっくりと車が動き出し、美桜は身を乗り出すようにして、最後まで手を振り続けた。
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