桜のティアラ〜はじまりの六日間〜
 「美桜様、絵梨様、お忘れ物はないですか?」
 「んー、大丈夫、なはず」
 
 メアリーの問いかけに自信なさ気に答えて、美桜はもう一度部屋を見渡す。

 「このお部屋ともお別れね」
 「ほんと。あー、名残惜しい」
 
 美桜と並んで、絵梨もぐるっと部屋を眺める。

 最後に二人はメアリーに向き直った。

 「メアリー、本当にお世話になりました。メアリーの細やかな心遣いと優しさ、ずっと忘れないわ。ありがとう」
 
 美桜がそう言うと、メアリーはとたんに目に涙を浮かべ始めた。

 「やだ、メアリー。泣かないで。ね?」
 
 美桜はそっとメアリーを抱きしめる。

 (本当に優しくて温かいな、メアリーは)
 
 そう思いながら、さっきパレスから帰って来た時のメアリーの笑顔を思い出す。

 「まあ、美桜様。とってもお似合いですわ」
 
 そう言ってティアラを着けた美桜を、何度も頷きながら嬉しそうに見ていた。

 改めて自分の全身を鏡で見た美桜は、今朝のメアリーの様子を思い出した。

 (きっとメアリーは、今日パレスで私がこのティアラを贈られることを分かっていて、このドレスと髪型にしてくれたんだわ)
 
 フォーマルなスタイルに髪をまとめ、桜のティアラに合うように、まるで花びらのようなデザインの薄い紫とピンクのドレス。

 おかげで全体がとても良い雰囲気に仕上がっていた。

 こんなにも心を尽くしてくれるメアリーには、本当に感謝しきれない。
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