桜のティアラ〜はじまりの六日間〜
 (…お別れを言わなくちゃ)
 
 下を向いて少し息を吸ってから、美桜は顔を上げてアレンを見た。

 「アレン、本当に色々とありがとう」
 「こちらこそ。ありがとう、美桜」
 「お父様や、クレア、パレスのみんなにもよろしく伝えてね。メアリーやリサ達にも」
 「ああ、分かった」
 「あと、どんなに忙しくても、きちんと食事と睡眠は取ってね」
 「うん、分かってる」
 
 そこで会話は途切れた。

 周りのざわめきや行き交う人達の流れ…。
 二人はそれに溶け込めず、別次元に取り残されたかのようだ。

 「…もう行かなきゃ」
 「うん」
 
 やがて美桜はそっと右手を差し出した。
 アレンも同じように右手を出して握る。

 (温かいアレンの手の温もり。覚えておこう。決して忘れないように)
 
 美桜はきゅっと大事そうにアレンの手をもう一度握ると、そっと手を緩めた。

 その時だった。
< 147 / 238 >

この作品をシェア

pagetop