桜のティアラ〜はじまりの六日間〜
【七】日本での日常
 ピピピピピ!
 
 無機質な音がいきなり頭の中に鳴り響き、美桜は、うーんと布団をかぶり直した。

 けれどそのままという訳にはいかない。
 手探りで枕元のアラームを止めると、仕方なく目を覚ました。
 
 見慣れない低い天井、そう思ったのは最初だけだ。

 (ああ、そうか。こっちが現実か)
 
 苦笑いしてベッドから降りる。

 (うわっ、さむ!)
 
 とたんに身震いして、慌ててエアコンを付けた。

 (あーあ、広くて温かいお部屋、優しいメアリー。言っちゃダメだと分かってるけど…)

 「戻りたーい!」
 堪えきれず声に出してしまう。

 (はは、むなしいだけね。さ、切り替えてがんばろう)
 
 美桜はトースターに、夕べコンビニで買ったロールパンを入れて温める。

 空港からの帰り道、とりあえずの飲み物と朝食を買っておいた。

 (今日は仕事帰りにスーパーで買い物しないとなあ)
 
 コーヒーとパンを食べ終わると、仕事用の鞄の中を確認して、着替える。

 職場に着いてから舞台用のメイクをする為、たいてい家を出る時はすっぴんだ。

 起きてから二十分後には出かける準備は出来ていた。

 (もう一つ食べちゃお)

 袋からロールパンを一つ取って口に入れながら、玄関を出てカギを締める。

 (こんなところクレアに見られたら怒られるわね。美桜様!お行儀が悪いですわって)
 
 気付くとついつい思い出に浸ってしまう自分に苦笑いして、美桜は気を引き締めた。

 (今日から仕事!がんばるぞ!)
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