桜のティアラ〜はじまりの六日間〜
 久しぶりの満員電車は辟易したけれど、職場の最寄駅に降りると、美桜の表情は明るくなる。

 (やっぱりいいな、キラキラの海)
 
 海沿いに広がる大きなパークを見下ろして、美桜は改めてここで働く事は幸せな事だと感じる。
 
 胸いっぱいに新鮮な空気を吸い込んでから、パーク内の従業員エリアに入っていく。

 時間はまだ七時。
 全体の朝礼は、今日の予定では八時半とあったから、まだまだたっぷり時間はある。

 だが、早めに行って、休んでいた間の業務日誌に目を通しておきたかった。

 「おはようございます!」
 
 早くて誰もいないだろうと思っていたのに、オフィスの奥ではすでに二人の先輩が、パソコンを覗きながら何やら打ち合わせをしていた。

 美桜より五つ年上で、美桜の入社後二年ほどは一緒にショーに出ていたが、今は主にオフィスの仕事をしている由香(ゆか)とみどりだ。

 「おおー、美桜!おかえり。どうだった?えっと、ハワイだっけ?」
 「違うわよ、由香。美桜は確かイギリスだよね?」
 「あ、はい。イギリスです」
 「そっか、ごめんごめん」
 
 由香はそう謝ったが、間違えるのも無理はない。

 美桜が有給休暇を取って旅行に行くのと同じように、何人ものメンバーが世界のあちこちに旅行に行っているのだ。

 皆、普段はまとまった休みが取れず、この時期に有給消化を勧められるので、ここぞとばかりに海外旅行を楽しむのだ。
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