桜のティアラ〜はじまりの六日間〜
 「それで、これがバレンタインのショーの企画書ね。ほぼこれで決定。リハの時に少し調整するくらい」
 
 由香に渡された分厚い書類を、美桜はぱらぱらとめくりながら目を通していく。

 軽く昼食を取ったあとは、オフィスの社員達が集まってのミーティングだった。

 バレンタインのショーは二月一日に始まり、十四日までの二週間毎日行われる特別なショーだ。

 「音響さんと照明さんの打ち合わせは?」
 美桜が聞くと、由香は頷いて答えた。

 「一応簡単に説明はしてあるわ。この企画書も渡してある。あとは、本番の一週間くらい前と前日、当日の合計三回のリハで詰める感じかな」

 了解ですと答えて、美桜はじっくり、ダンサーの動きに関連するページを読む。
 
 今回踊る場所は、ショッピングアーケードにある小さなステージだ。
 普段は、季節のデコレーションをしたり、フォトスポットで使われたりすることもある。
 
 そこに観客用の椅子を、ペア五十組、計百脚用意するとのこと。

 「ダンサーは、男女のペア三組、合計六人ね」
 「うわっ、少ないですね」
 
 驚いて、美桜は思わず由香を見る。

 「うん、あの特設ステージは小さいからね。あそこを使うこと自体初めての試みだし」

 今までは、クリスマスと同じように、バレンタインやホワイトデーのショーもイベント広場の大きなステージで行ってきた。

 「ただねー、クリスマスとバレンタインはやっぱり違うのよ、雰囲気が。家族連れやカップルで賑わうクリスマスに比べて、バレンタインは恋人同士のしっとりしたイメージ。で、今回は客席も用意してみたの。二人の距離を縮めてショーに見とれて欲しいなって」
 「なるほどー」
 
 納得したように、美桜は何度も頷く。
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