桜のティアラ〜はじまりの六日間〜
 「あの女の子、可愛かったね。ほら、一番前で踊ってた五才くらいの」
 「うんうん、可愛かったですー。将来うちで一緒に踊ってくれないかな」
 「えー?その頃私達いったい何歳よ?」
 「美桜先輩は、えーっと還暦くらい?」
 「おいこら!」
 
 無事にショーを終え、レッスンルームに戻ってクールダウンしながら反省会をする。

 と言っても、実際は単なるおしゃべりになることが多い。

 「まったくもう、あやちゃん私と二つしか違わないんだからね」
 「えへへ、そうでしたー」
 
 可愛く首を傾げる綾乃は、もうすぐ二十歳になるところだが、見た目は十七歳くらいだろうか。

 まるでアイドルのような雰囲気で、綾乃目当てにやってくるゲストも多い。
 
 ワイワイ言いながらストレッチを終えドレッシングルームに戻ると、カーペットエリアに座っていたあゆみが顔を上げた。

 どうやら由香にテーピングをしてもらっているところらしい。

 「あ、美桜先輩!すみませんでした。急に代わって頂いて」
 「ううん、大丈夫。それより足の具合はどう?」
 「普通に歩くのは平気です。体重を外側にかけるとズキッと痛むくらいで」
 「はい、これで良し」
 
 由香がテーピングテープを切って立ち上がった。

 「とりあえずの応急手当ね。今日はもう上がっていいから、病院で診てもらうこと。いい?」
 「はい。ありがとうございます」
 
 あゆみはもう一度美桜にお礼を言ってから、慎重に歩いて部屋を出て行った。

 「お大事にね」
 
 皆で見送っていると、代わりにみどりが入ってきた。

 「美桜、さっきはありがとう!助かったわ」
 「いえいえ」
 「それでねー、言いにくいんだけど…。このあとのフラッグショー、あゆみは十番ポジションで出るはずだったの。誰か他にいきなり十ポジ出来る子って言ったら…」
 「以下同文」
 「ちょっと由香!茶化さないでよ」
 
 真剣な表情で怒るみどりに対して、ははっと笑いながらおどける由香。
 とてもバランスがいいなといつも美桜は思う。

 リーダーとして、細やかに心配りをすることも大事だし、何があってもドーンと構えている度胸も、みんなに安心感を与えるためには必要だ。
 
 この二人は、お互いの役割をそれぞれ心得ているようだと、美桜は日頃から思っていた。

 「十ポジですね。了解です」
 美桜がそう言うと、みどりがパッと振り返った。

 「いいの?ありがとう!」
 「はい!本番まで時間もありますし、大丈夫です」
 「よっ!さすが美桜。太っ腹!」
 「由香!何言ってんのよもう。じゃあね、美桜。よろしくね」
 
 そう言ってみどりは、由香の背中を強引に押し出しながらドアの外へ消えていった。
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