桜のティアラ〜はじまりの六日間〜
 少し休憩してから、美桜は再び衣裳部屋で着替え始めた。

 今度はフラッグショーの衣裳、紺のショートジャケットに真っ白なミニのキュロットだ。

 英国衛兵風というだけあって、肩にはゴールドの肩章、パレード用の帽子にも羽がついた本格的な装いだ。

 (うん、やっぱりこの衣裳着ると、気持ちが引き締まるな)
 
 不意に、メイソンや護衛隊の皆を思い出す。

 (みんな元気に練習してるかな。よし、私もがんばろう)
 
 美桜はドレッサーの前に移動すると、髪を後ろで結び、パレード帽を目深にかぶってあごひもを調整する。

 (えーっと、あとは手袋とブーツね)
 
 真っ白な手袋をはめ、シューズクローゼットからこれまた白いロングブーツを取り出して履く。

 「先に上に行ってまーす」
 
 まだ準備中の他のメンバーに声をかけると、美桜は階段を上がって待機場所の横の倉庫に入った。

 ショーで使う小道具や、パレードのフロートなど、たくさんの色々なものが置かれている。
 
 一番手前に準備してあるフラッグのケースから一本取り出すと、美桜は軽く振ってみる。

 感触を確かめるように少しずつ動きを大きくすると、バサッと風を切りながらフラッグが綺麗になびく。

 (一週間ぶり、どうかな?)
 
 少し不安になりながら、まずは手首を返しつつお腹の前と背中のうしろ、交互に八の字を描くように片手で回してみる。

 (うーん、やっぱりちょっと重く感じるな。トスはどうだろう。調子いい時は目をつぶっててもキャッチ出来たけど)
 
 さすがにそれは無理だろうと、まずは低めに一回転投げてみる。
 なんなくキャッチ出来てほっと一安心。

 今度は高めに二回転。
 少し右手を伸ばして取りに行ってしまった。

 本来なら、構えた所にすっとフラッグが戻ってくるのが理想だ。

 何度かやってみて、ようやく最後には感覚を取り戻せた。

 (うん、大丈夫そう。あとは十ポジの動きね。トリックターンはカウントスリーで、ピンフィールは外側から二番目、二人技の時は後出し…)
 
 ひと通り頭の中で通してから頷いた。

 (よし!あとは周りをしっかり見てやるだけね)
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