桜のティアラ〜はじまりの六日間〜
 やがてガヤガヤと他のメンバーも上がってきて、各々フラッグを手にウォーミングアップを始める。

 美桜は、同じ列になるメンバーによろしくと挨拶をした。
 
 整列の合図があり、皆はフラッグを右側に携えて二列に並ぶ。

 一番前でこちらを向いて立っているのは、指揮官の役割をするドラムメジャーだ。

 フラッグではなくメジャーバトンを持ち、ホイッスルに手をかけながら、列が乱れていないかを鋭い目つきで確認している。

 今日のチームのドラムメジャーは、ベテランの直樹(なおき)だ。

 「圭太(けいた)、もう少し右、そうそこ」
 
 列が綺麗に整ったことを確認すると、直樹は急にきりっと顔つきを変え、手を叩きながら号令を出す。

 「テンハット!」

 ザッと皆は一斉に気を付けの姿勢を取る。

 右手を真っ直ぐ下ろしてフラッグに添え、左手は胸の前で地面と平行に構えてフラッグを握る。

 顔の角度も、斜め上四十五度に視線を向けて揃える。

 他のショーでは笑顔で踊るが、このフラッグショーは決して笑わない。
 きりっとした表情のままクールに演技するのだ。

 「今日の十番は、あゆみに代わって美桜が入ります」
 「よろしくお願いします」
 
 直樹の紹介の後、気を付けの姿勢のまま美桜がそう言うと、皆も揃ってよろしくお願いしますと返す。

 「今日はほぼ無風なので、ラストのトスは二回転です」
 「はい!」
 
 返事をしながら、二回転かと美桜はちょっと怯む。

 (いや、やるしかない)
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