桜のティアラ〜はじまりの六日間〜
 通常、カラーガードなどのショーは屋内で行われることが多いが、ここは海のすぐそばだ。

 空中に投げた時に風の影響を受けて流されてしまうことがよくある。

 そのため、強風の時はラストの大技のトスは、低めの一回転にする。

 どちらにするのかは、その日の風の様子からドラムメジャーが判断して、毎回出発前にメンバーに伝えていた。

 「時間です」
 
 みどりが直樹に告げると、直樹はホイッスルを構え、ピーッピ!と力強く吹いた。
 
 列は一斉に足踏みを始める。

 直樹のホイッスルに合わせてしばらくその場で足踏みを繰り返したあと、直樹は右足を後ろに引いてから、切れのある動きで回れ右をした。

 「ピーッピッピッピ!」
 
 合図が変わり、列は力強く前進し始める。

 皆、隣の人と歩幅を揃え、肩のラインがずれないように意識しながら歩く。

 門を出ると、たくさんの観客がこちらを見てわあっと歓声を上げた。

 「へいたいさんだ!」
 
 小さな男の子が目を輝かせて言うのが聞こえ、思わず顔を緩めそうになった美桜は、慌てて気を引き締める。

 (男の子の期待に応えて、かっこいいショーをしなくては)
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