桜のティアラ〜はじまりの六日間〜
 今は、中央から左右に向かって順番に、フラッグを体の前で風車の様に回していく途中だった。

 一番端の二人まで来ると、そこからは逆に内側に向かって順番にトスをしていく事になる。

 (もう少しでトスが始まる)
 
 その時だった。

 観客に背を向けてメンバーに向き合っていたドラムメジャーの直樹が、右手の手の平を下に向け、下げるような仕草をゆっくり何度も繰り返した。

 (一回転のトス!)
 
 それは変更の合図だった。

 やがて順番が両端の二人までくると、次の瞬間くるっと頭の高さで回転するようにフラッグを投げてキャッチする。

 ドラムロールに合わせて、流れるように次々とトスの波が起こり、中央の二人が無事にキャッチするのと同時に、ドラム隊の締めの音がダンッと力強く鳴り響いた。
 
 息を詰めて見守っていた観客が、ようやくほっと一息ついた後、一斉に大きな拍手が沸き起こる。
 
 直樹は背中に歓声を浴びながら、よくやったというように、小さくメンバーに頷いた。
 
 そして美しい姿勢でキュッと回れ右をすると、ホイッスルで敬礼の合図を出す。

 メンバーは拳を作って左胸に当てた後、真っ直ぐ前に腕を伸ばしてから右目のこめかみに指を揃えて敬礼した。

 その動きも、一、二、三、と一糸乱れぬタイミングだ。

 おお!とより一層拍手が大きくなる。
 
 直樹はその幸せな瞬間を存分に味わった後、再びホイッスルで合図を出し、列は退場していった。
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