桜のティアラ〜はじまりの六日間〜
 「うははは、こりゃおもしろいわ」
 「ちょっと由香、笑いすぎよ」
 「だって見て、みんなの顔。圭太なんて半泣きじゃん」
 
 ミーティングルームで、さっき撮ったばかりのフラッグショーの動画を見ながら、由香はおもしろそうに笑った。

 みどりは真顔でたしなめる。

 「そりゃそうなるわよ。だって直前よ?ほら、風車やってる途中にぶわって海風が吹き始めたんだもん。私も動画撮りながらハラハラしちゃった。あ、ちょっと手もぶれてるね」
 「あー、私も実際見てみたかったわ」
 
 まだ笑いが止まらない様子で由香が言う。

 「ちょっともう!不謹慎な。みんな必死だったんだからね?」
 「でも無事にクリアしたでしょ?やれば出来るんだって、みんな」
 
 そう言ってもう一度画面に目をやった由香は、再び笑い始めた。

 「あはは、直樹の合図に圭太ったら思わず頷いちゃってる。お、来るぞ来るぞ、はいそこでトス!おお無事にキャッチ!からの、ドヤ顔!」
 
 あははと笑い続ける由香に、みどりは呆れて溜息をつく。

 と、コンコンとドアをノックする音がした。

 「はーい」
 由香とみどりが顔を上げると、失礼します、と美桜が入ってきた。

 ジャージ姿で、手にはファイルを持っている。

 「お、美桜!お疲れ様。今日は色々あったね」
 「あ、はい。このあとミーティングですよね?」
 「ああ、いいや。あんたはもう上がりな」
 「え?でも。バレンタインショーの話も、さっき途中で抜けちゃったし」
 「いいっていいって。明日で充分間に合うから」
 
 手をひらひらさせて由香が言うと、みどりも頷いた。

 「美桜、今日はすごく疲れてるはずよ。ゆっくり休んで。ね?」
 「あ、はい。じゃあお言葉に甘えて、お先に失礼してもいいですか?」
 「うんうん、また明日ねー」

 由香とみどりは笑顔で美桜に手を振った。
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