桜のティアラ〜はじまりの六日間〜
 「うわー、外は寒いね。風が冷たい」

 IDを見せながら従業員用の出口を出ると、美桜は思わず首をすくめた。

 「ああ。この季節は体冷やさないように気を付けなよ」
 
 隣の巧が、美桜の首にマフラーを掛ける。

 「あったかーい。いいの?巧くんは?」
 「俺は平気。ほら、このダウン首元まであるから」
 「そっか。ありがとう」
 
 二人は駅までの道を並んで歩き始めた。

 「あ、そうだ。ごめんね、私のせいで巧くんもセンター下ろされちゃって」
 
 美桜の同期だが、年齢は二つ上でダンスリーダーでもある巧は、常にショーのセンターを任されてきた。

 「いや、全然構わないよ。俺もあの振り付けでセンター張る自信ない」
 「確かに。巧くんのイメージじゃないね」
 
 さっきの智也と綾乃の踊りを思い出して、思わず二人で苦笑いする。

 「いやー、二人ともブリブリの甘々だったな」
 「あはは、なにその表現。まあでも分かるけど」
 「だろ?今回のショーはあの二人で決まりだな。俺らはそっと脇で見守ろうぜ」
 「ふふ、そうね。きっと大成功よね」
< 178 / 238 >

この作品をシェア

pagetop