桜のティアラ〜はじまりの六日間〜
 すると、ふと思い出したように巧が話を切り出す。

 「そう言えばさ、ホワイトデーのショー、由香先輩とみどり先輩のラフな振り付けの動画もらっただろ?」
 
 バレンタインのショーよりもホワイトデーの方が振り写しに時間がかかるとみて、由香はすでにメンバーに、簡単に踊ったものを撮影して送っていた。

 「あれ見てやっぱりさ、バレエは俺普段やらないからまずいなと思って、練習してたわけ。自分のレッスンの後に」
 
 自分のレッスンというのは、巧がダンススタジオで受け持っているダンスレッスンのことだろう。

 契約社員の美桜と違いフリーで活動している巧は、このパーク以外にも、週に二度ダンスインストラクターをしていたり、単発のイベントで踊ったりしている。

 「スタジオで一人、動画見ながら踊ってたんだ。そしたら次のレッスンの先生が入って来たんだけど、よりによってバレエの先生でさ」
 
 そこまで言って溜息をついた巧に、美桜はその後を想像出来て笑った。

 「ダメ出し食らっちゃったと?」

 そうなんだよ、と巧はげんなりしたように言う。

 「あら、巧先生。一体それは何の踊りですか?まさかクラシックバレエとか言わないでしょうね」

 体をくねらせ、裏声でその先生の真似をしているらしい巧に、美桜は思わず吹き出す。

 「バレエの先生って、妙に厳しいよね。ジャズやヒップホップのレッスンは、とにかく楽しくテンション上げてって雰囲気なのに、バレエはある一定のレベルまでくると、急にレッスン厳しくなる気がする」

 「そう!あれなんでだ?私達はあなた達の世界とは違うわ!みたいな。妙なプライド?」

 「あはは、そこまで思ってるかは分からないけど。私も、最初に習ってた頃は優しかった先生が、ポアントクラスに上がったとたん、急に恐くなったのを覚えてる。バレエの厳しさも教えていくわよ、みたいな。あれって日本だけでなく、世界共通じゃない?」

 「そうなのかもなあ。やっぱり違うんだろうな、伝統あるバレエの世界は」
< 179 / 238 >

この作品をシェア

pagetop