桜のティアラ〜はじまりの六日間〜
 「今日からいよいよホワイトデーのレッスン本格始動!がんばるぞ!」
 
 気合を入れて、美桜はレッスンルームのドアを開けた。

 体をほぐしているとやがて巧がやって来て、いきなり、ごめん!と手を合わせる。

 え、何が?と美桜は驚く。

 「あのさ、今日からバレエの先生来るじゃん?それで俺、ちょっと前に由香先輩に聞かれたんだ。バレエ業界には特にツテもないから、うちのダンススタジオの先生に声掛けてみてもいいかって。いいですよーって軽く答えたら、なんとうちの先生オッケーしたんだって。だから今日から来るんだ、その…」
 「ああ、例のダメ出し先生?」
 「うん。すまん。覚悟してくれ」
 「やだ、巧くんが謝ることじゃないでしょ。それにそんな大げさな。わざわざ私達の指導に来て下さるんだもん。ありがたいよ」
 
 笑顔でそう言った美桜だったが、いざレッスンが始まると、そんな余裕は吹き飛んだ。

 「美桜さん!アラベスクの足は綺麗に伸ばす!ポールドブラは丁寧に!背中はもっと反らす!軸足しっかりパッセはもっと高く!」
 
 矢継ぎ早に繰り出されるダメ出しの嵐。

 初日のレッスンが終わり、レッスンルームを後にする頃には、美桜はもうヨレヨレだった。

 「いたたた、うっ筋肉痛が…」
 「大丈夫か?美桜」
 
 巧が見かねて肩を貸してくれる。

 「ごめんな、やっぱりキツイだろ?あの先生」
 「ううん。巧くん、私ね、追い込まれると火がつくタイプなの。今すんごい燃えてるの。最後まであの先生に食らいついていく。そして絶対ショーを最高のものにして見せるわよ」
 「お、おお」
 
 ガッツポーズで一点を見据える美桜は、今まで見たことがないほど気合に満ちており、巧はちょっとたじろいだ。
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