桜のティアラ〜はじまりの六日間〜
 次の日の朝、美桜は出勤すると、オフィスに貼られたシフトを確認していた。

 (十時から十二時までミーティング…)
 
 ふと手に持っていたファイルに目を落とし、隙間に挟んであった封筒を取り出す。

 (フライトは十一時半。ミーティング中か)
 ふっと小さく息を吐く。

 お父様に申し訳ないな、そう思っていると、
 「おはようございまーす」
 と、綾乃が元気に入ってきた。

 「おはよう、あやちゃん」

 美桜は急いでチケットをしまうと、タイムカードを押した綾乃と一緒にオフィスを出た。
 
 ドレッシングルームで着替えた後、お茶でも淹れようとマグカップを持って立ち上がった時だった。

 「美桜ー、いる?」
 入口から由香が顔を覗かせた。

 「はい、なんでしょうか」
 「ごめーん、シフト変更。今から外に買い出しに行ってくれる?」
 「分かりました。文房具とかですか?」
 「ううん、違うの。着替えたらオフィスに来て。あ、直帰になるから、鞄も持ってね」
 
 はい、と返事しつつ首をひねる。

 (今から買い出しで直帰?そんなにかかる?)
 
 どこまで何を買いに行くのだろうと思いながら、荷物を持ってオフィスに行く。

 「準備出来ました。あの買い出しって…」
 「うん、あのね。紅茶とショートブレッドを買ってきて欲しいの。ほら、この間お土産でくれたでしょ?もうなくなっちゃったのよ」
 「…はい?」
 
 由香の言葉に、美桜は思わず間の抜けた返事をする。

 「いや、でも、あれはイギリスの…」
 「おいしかったわー。あれと同じものお願いね。はい、これ交通費」

 そう言って由香が差し出したものを見て、美桜は飛び上がりそうになった。
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