桜のティアラ〜はじまりの六日間〜
 (…このフルートの音、もしかして)
 
 アレンは、ふと顔を上げるとピアノの方を振り返った。

 メアリーの横に立っているフルート奏者を確かめようとしたが、ピアノの陰に隠れて顔は見えない。

 (まさかな。そんなことある訳がない)
 
 ふっと自虐的に笑うと、目を閉じてもう一度音楽に耳を傾ける。

 とにかく美しい。

 心が温かく満たされていくのを感じる。

 悲しみや苦しみからも、解放させてくれるようだ。 
 
 ずっと聴いていたい。
 この音楽に浸っていたい。

 そこにいる誰もがそう思う中、ゆっくりと演奏は終わりを告げた。
 
 やがて静寂が戻り、皆は溜息をついた後、一斉に拍手を送る。

 「素晴らしい!なんと美しい演奏だ」
 
 ジョージが立ち上がって称賛を贈る。

 アレンも立ち上がってピアノを振り返ると、惜しみなく拍手を送る。

 クレアが演奏者二人に、前に出るように促した。

 メアリーとフルート奏者は、ゆっくりとピアノの横に出ると、深々とお辞儀をした。

 より一層大きな拍手を送っていたアレンは、やがて顔を上げた二人を見て、ピタッと手の動きを止めた。
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