桜のティアラ〜はじまりの六日間〜
 ガーデンの中央エリアでデザートを食べる間も、アレンは言葉少なによそよそしいままだった。

 クレアは、やれやれと言うように美桜に手を広げて見せる。

 と、次の瞬間、思い出したとばかりにクレアは手のひらを打った。

 「坊ちゃま、これから美桜様をお部屋にご案内しませんこと?」
 「ん?ああ。そうだな」
 
 アレンは頷くと、ようやく笑顔を見せた。

 「お部屋って?」
 少しほっとしながら美桜が聞く。

 「行けばすぐ分かるよ。こっち」

 そう言うとアレンは、ガーデンの奥に向かって歩き始めた。

 (こっちって確か、何もないはず。これから植えるお花を考えるって…)
 
 そう思いながら顔を上げた美桜は、あれ?と驚く。

 「何か、建物が出来てる?」
 「うふふ、そうなんですの」

 後ろでクレアがもったいぶったように言う。
 
 何だろうと思いつつ、アレンの後を追うと、やがて小さな家が見えてきた。

 「わあ!可愛いおうち!森の中の小屋みたい」
 
 コテージのような風合い、木のテラスもガーデンになじんでいて、まるで絵本に出てきそうな雰囲気だ。

 さあ、どうぞ、とクレアがドアを開けてくれる。

 隣のアレンを見上げると、微笑みながら手で美桜を促す。

 そっと足を踏み入れると、正面の広い部屋には大きなテーブル、そして左側にはソファが置かれていた。

 大きな窓はテラスに出られるようだ。
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