桜のティアラ〜はじまりの六日間〜
 「…ねえ、美桜」
 
 隣に座り、少しためらった後そう切り出すと、ん?と美桜が首を傾げてアレンを見上げる。

 「あの、あのさ。俺、一月に空港で美桜と別れた時、ものすごく後悔したんだ。どうして美桜の手を離してしまったんだろう、どうして引き留めなかったんだろうって。帰り道にずっと思ってた。でも反面、これで良かったんだ、こうするしかなかったんだ、とも思ってた」
 
 当てもなく話し始めたアレンは、ただ素直に自分の想いを口にする。

 「美桜の生活は日本にある。大切な家族も友人も、仕事も。そして俺の生活はここにある。ウォーリング家の一員として、この地域の人達を守らなければいけない。俺達は住む世界が違うんだって。だからこれでいいんだ。あとは時間がゆっくり忘れさせてくれるのを待とう。大事な思い出として、密かに心にしまっておこう、そう思った」
 
 美桜は、ただ静かに耳を傾ける。

 「それからは、淡々と日常をこなしてた。大丈夫、美桜がいなくても俺はいつもと変わらない。このままの生活が続くんだって。でも今思うと、心を失くしていた気がする」
 
 そう言うとアレンは、美桜を見て優しく笑った。
< 208 / 238 >

この作品をシェア

pagetop