桜のティアラ〜はじまりの六日間〜
【十】優しさに包まれて
 「い、今なんと?」
 
 広間で朝食の席に着いていたジョージは、思わず立ち上がりかけた。

 普段は決してそんなことをしないクレアが、ガシャンと食器の音を立てる。

 広間にいる皆が、息を詰めて動きを止めた。

 「今、な、なんと言ったのだ?アレン」
 
 ジョージの言葉に、全員が固唾を飲んで耳をそばだてる。

 アレンはもう一度美桜と顔を見合わせると、ジョージに向き直った。

 「私達の結婚を認めていただきたい、と申し上げました」
 「け、結婚!」

 ざわっと一気に広間の空気が動く。

 「み、美桜ちゃんと、アレンが!」
 
 結婚、そんな夢のような…とジョージは誰にともなく呟く。

 「お許しいただけますか?」
 
 アレンと美桜が揃って頭を下げると、ジョージは慌てて美桜に駆け寄った。

 「わっ、お父様、危ない」

 つまずきそうなジョージに美桜が手を差し出すと、ジョージは逆にその手を握り返してきた。

 「美桜ちゃん、よくぞ、よくぞ決心してくれた。ありがとう!本当にありがとう!」
 
 感極まったように涙声で言い、美桜の手を力強く握る。

 「君のことは、私達が皆で守る。決して寂しい思いはさせないよ。パレスの全員が君の見方だ。なあ?みんな」
 
 振り返ると、皆一様に涙を堪えながら頷いている。

 「もちろんですとも!私、生涯かけて美桜様にお仕えいたします」
 
 クレアの言葉に、私も、もちろん私もと皆が続く。

 「ありがとうございます」

 美桜が頭を下げると、誰からともなく拍手が起こった。

 「おめでとうございます!アレン様、美桜様」
 
 皆の輝くような笑顔と、惜しみない拍手を受け、アレンと美桜は微笑み合った。
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