桜のティアラ〜はじまりの六日間〜
 「お待たせ!わー、ほんとにアレンだ」
 「よー、どうだい、久しぶりの日本は?」
 
 待ち合わせした行きつけのカフェ。
 絵梨と仁は、入って来るなりアレンに声をかける。

 「うん、なんか浦島太郎みたいな気分。四年ってすごく色々変わるんだね」
 「そりゃそうよ。四年もあれば、街も変わるし女も変わる」
 「ぶっ!何よそれ?全く仁ったら」
 
 ねえ?と顔を寄せてくる絵梨に、美桜も思わず笑い出す。

 「さてと、とりあえずドリンク買ってくる。ケーキも食べちゃおうかな」
 「あ、私も!ティラミス食べたい。仁くんはコーヒーでいい?一緒に買ってくるよ」
 「うん、頼む。サンキュー、美桜ちゃん」
 
 女子二人が楽しそうにカウンターへ向かうのを見送りながら、仁はアレンに切り出す。

 「で?何がどうなってるのか、説明してもらおうか?」
 
 この間までは互いの連絡先すら知らなかったアレンと美桜から呼び出され、仁はある程度予想していた。

 しかもアレンは、日本に四年ぶりに帰って来ている、となれば、話はもうこれしか思いつかない。

 「お前達、決心したんだろ?」
 「ああ」
 「そうか、だと思ったよ」
 
 付き合うことにしたんだな、と言いかけた仁の言葉は、アレンの予想外の台詞に打ち消される。

 「俺達、結婚する」
 「やっぱりな、結婚…え?け、結婚?」

 仁は、椅子から落ちそうになるほど驚いてのけ反った。
 目を見開いたまま固まっている。

 「仁には、最初に俺の口から伝えたかった」
 
 アレンは真っ直ぐに仁を見据えて言う。

 しばらく呆然としていた仁は、やがて参ったとばかりに笑い出した。

 「結婚、そうか、結婚か。ははは、さすがにそれは考えてなかった。うん、ははは」
 
 ふうと一息ついてから、仁はしみじみとした口調になる。

 「すごいよ、お前達。よく決心したな。ここまでくるとあっぱれだよ、うん」
 
 そう言って、カウンターで注文している美桜を振り返る。

 「美桜ちゃんも、よほどの覚悟で決めたんだろうな。イギリスで暮らすってことだろ?」
 「ああ。仁との約束は必ず守る。決して彼女を悲しませることはしない」
 「あったりまえだ!」
 
 バシッとアレンの腕を叩いてから、仁はアレンに笑いかけた。

 「幸せになれよ。二人で」
 
 意外なほど清々しい気分だった。
 そして、そんな気持ちになれた自分を、自分で褒めてやりたい、と仁は思った。
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