桜のティアラ〜はじまりの六日間〜
【十一】未来へ
 「おーい、美桜。そろそろアレン君が迎えに来る頃だぞ」
 
 和室で母に袴を着せてもらっていた美桜は、はーい、今行く、と父に返事をする。
 
 と、その時インターホンが鳴った。

 「ほら、美桜。アレン君が着いたぞ」
 
 おはようございます、と玄関で父と言葉を交わしているアレンの声が聞こえる。

 「はい、これで良し!」
 鏡越しに母が美桜に頷く。

 「ありがとう!」
 美桜は笑顔でお礼を言うと、しずしずと慣れない動きで和室を出た。

 「お待たせ」
 
 ピンクと紫を基調にした華やかな袴姿の美桜を見て、おおー!と父とアレンは同時に声を上げる。

 「いいじゃないか。馬子にもなんとやらだな」
 「美桜、すごく似合ってる。素敵だね」
 
 父の言葉には、ぶうとふくれて見せ、アレンの言葉には、えへへと照れたように笑った。

 「良かったわね、美桜。アレン君に車で送ってもらえて。その格好で電車乗るのは大変よ」
 「うん。ありがとう、アレン」
 
 どういたしまして、とアレンはかしこまってお辞儀する。

 「じゃあ気を付けて行ってらっしゃい!」
 
 見送りの両親に手を振り、美桜はアレンが借りてきてくれた車に乗り込む。
 
 仁と絵梨にカフェで会った日の夜、アレンはイギリスの父に電話をした。

 無事に全ての人に報告を済ませたと話すと、そうか!と声を弾ませていた。

 明日にでもイギリスに帰ると告げると、いや、その必要はない。式典の段取りは整ったから、もっとゆっくりしてこいと言うのだった。
 
 式典の準備が整った、と言うのはいささか疑問ではあったが、アレンはありがたくその言葉通り、もう少し日本に滞在することにした。
 
 なぜなら、美桜の誕生日がすぐそこまで近付いていたからだ。

 美桜はこの先、アパートを引き払ったり仕事の引き継ぎなどで、しばらくは日本にいなければならない。

 自分がイギリスへ帰ると、次に会えるのは少し先になる。
 それを思うと、どうしても美桜の誕生日は一緒に過ごしたかった。
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