桜のティアラ〜はじまりの六日間〜
 高校から大学まで七年間通ったS学園。

 ついにここを巣立つ時が来たと、美桜は感慨深く、車から校舎を見上げる。

 「講堂だよね?式場。だったら西門が近いか」
 「うん。よく覚えてるね、アレン」
 「案外忘れないもんだよ」
 
 ゆっくりと車を西門の手前で止めると、アレンは助手席に回ってドアを開け、美桜に手を差し伸べる。

 「ありがとう」
 「じゃあ、式が終わる頃に正門広場で待ってるから」
 「うん。絵梨ちゃんや仁くんと一緒に行くね」
 
 手を振って門の中に入っていく美桜を見送ると、アレンは近くのコインパーキングに車を停めた。
 
 式が終わるまでの時間、キャンパスを歩いたり、カフェでコーヒーを飲んだりして懐かしむ。

 (たった一年だったけど、ここに来て良かった。たくさんの思い出が出来たし、何より美桜達に出会えた)
 
 なんだか今日は、自分にとっても卒業式のような気がする、とアレンは思わず笑みをもらす。
 
 気が付くと、講堂からたくさんの袴姿やスーツ姿の学生が出て来た。
 どうやら式が終わったようだ。

 アレンもその人波に紛れて、正門広場へ向かう。
 そこで仁や絵梨達と四人で写真を撮ることにしていた。
 
 図書館の角を曲がり、正門に続く道に出た時だった。
 アレンの目に、満開の桜が飛び込んできた。

 (…なんて美しいんだろう)
 
 そこに見事な桜の木があることは分かっていた。
 けれどいざ目にすると、思わず圧倒されて立ち尽くす。

 まるで夢の中のような幻想的な光景だった。
 
 学生達が行き交う中、やがてアレンは、一人桜の木の下で佇む美桜を見つけた。

 舞い落ちる桜吹雪に手を伸ばし、微笑んでいる。

 アレンは、その美しさに見とれ、声をかけそびれていた。
 
 すると、ふとこちらに顔を向けた美桜が、アレンを見つけて笑いかける。
 アレンはゆっくりと美桜の前に歩み出た。
 
 見つめ合う二人に、ひらひらと桜の花びらが舞い落ちる。

 「綺麗だね」
 「うん、綺麗ね」
 
 そう言うと、美桜はふとある事を思い出した。

 「ねえ、お父様もここで運命の出会いをしたのよね?」
 「ああ、そうだった」
 
 二人で桜を見上げてから、微笑み合う。

 何年も前に、ここで同じように桜を見上げた若き日のアレンの両親を想い…
< 237 / 238 >

この作品をシェア

pagetop