桜のティアラ〜はじまりの六日間〜
 鏡を見ながら体をひねったりしていると、カーテンの向こうからリサが大丈夫かと声をかけてきた。

 OKと答えてカーテンの中にリサを招き入れる。

 少し美桜を眺めてからホックの位置を付け変えたりして整えると、リサはいよいよ壁に掛かったドレスを下ろした。

 背中のファスナーを下げ、美桜が着やすいように中に空洞を作ってから片膝をつく。

 「サアドウゾ」

 美桜の右手を取ってドレスの真ん中に立たせると、リサは注意深くゆっくりとドレスを引き上げていった。

 やがてドレスが胸元までくると、美桜もそっと左右の袖に腕を通す。

 背中のファスナーのあと最後にホックを止めたリサが、鏡に映る美桜を見て溜息混じりに感嘆の声を上げた。

 「Wow! You are so beautiful!」

 美桜は照れ笑いを浮かべてお礼を言う。

 なぜ今自分はこんなに綺麗なドレスを着せてもらっているのか、考えても分からないけれど、とにかくなんだか嬉しかった。

 髪はハーフアップでまとめられ、肩に下ろした部分はふんわり広がり、毛先はくるっとカールしている。

 動くたびに揺れるのが楽しくて、美桜は意味もなく首を振ってみたりした。

 メイクも、決して派手ではないものの、目がぱっちり大きく見え、チークや口紅もしっかり色が乗っているのに顔から浮くこともなく馴染んでいる。

 (はあ…、こんな気分初めて!)

 リサが用意してくれた、少しヒールの高い靴に足を入れる頃には、さっきまで頭の中でいっぱいだった数々の疑問は、もう考えなくなっていた。

 (なんだか、素敵な事が始まったような気がする)

 美桜は心の片隅で、ぼんやりとそう思った。
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