桜のティアラ〜はじまりの六日間〜
 仁と絵梨と美桜、そして高校三年生の時にイギリスから編入してきたアレンの四人は、いつも一緒にいる気の合う同級生だった。

 当初から日本語は堪能だったけれど、単身日本にやってきて戸惑うことも多かったアレンに、あれこれとちょっかい…ではなく、世話を焼いていたのが仁だった。

 「アレン、そんな漢字の勉強なんかより、よっぽど役に立つこと教えてやる。これから渋谷行こうぜ」
 「ちょっと仁!あんたそんなこと言って、まーた可愛い女の子ナンパしに行くつもりでしょ?」
 「それが違うんだよ、絵梨」

 放課後、机に向かって勉強していたアレンの肩に腕を回して、真剣な顔で仁が言う。

 「アレンと一緒にいると、なんと!かわい子ちゃんが向こうから声かけてくるんだよ。ナンパされちゃうんだよ、俺達」
 「はあ?なんであんたがドヤ顔するのよ」

 絵梨は腰に手を当てて呆れたように脱力する。

「アレン、無理して行かなくていいからね」

 美桜がそう言うと、アレンは首を振ってにっこり笑う。

 「いや、仁が色々教えてくれて楽しいよ」
 「そう?ならいいんだけど」

 「あ、じゃあさ美桜。私達も行かない?アレンに変なこと教えないように仁を見張っていよう」

 そんな流れで、よく四人で遊びに行ったっけ。

 アレンは一年間の留学を終えて、美桜達が系列大学に進むのと同時にイギリスに帰り、それきり会っていない。

 「もうかれこれ、四年近くアレンに会ってないだろ?二人とも」
 「そっか、もう四年になるのか。仁は暇さえあれば遊びに行ってるんだっけ?アレンのところに」
 「暇さえって、おい。一応仕事も兼ねてね」
 「ナンパも兼ねて?」
 「そうそう、イギリス美人を…って違うから!」
 
 二人のやり取りを笑いながら聞いていた美桜は、ふと呟いた。

 「楽しかったなあ、あの頃。また四人で集まりたい」

 だろ?と仁が前のめりになる。

 「アレンも言ってたよ。みんなで会いたいって。いつでもうちに泊まりに来てくれってさ」
 「仁くんはいつも泊めてもらってるの?」

 キャラメルマキアートのカップを持ち上げながら美桜が尋ねる。

 「そう。あいつのうちすんごい金持ちだからさ。いつでも何人でもウエルカムだぜ」
 「だぜって、あんたのうちじゃないでしょ!」

 絵梨が軽く仁の肩をぺしっと叩く。

 相変わらずテンポの良いつっこみに、美桜もふふっと笑った。

 けれど、そうは言っても仁の家だって相当なお金持ちなのだ。

 祖父の代から、不動産やレジャー施設など、いくつもの会社を立ち上げてきた有名な倉田グループの、仁はいわゆる御曹司である。

 高校卒業後、仁も少しずつ家業を継いで、大学に通いながら世界中を仕事で回っているらしい。

 「な?行こうって。飛行機さえ予約すればいいからさ。正月休みいつまで?」

 何度も言われ、押され気味になった絵梨と美桜は答える。

 「私は一月ほとんど講義ないけど、美桜は?大学はないにしても、お正月って仕事でしょ?」
 「うん…、一番休めない時かな」
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