桜のティアラ〜はじまりの六日間〜
 いったい仁は何を言っているんだろう?

 話がかみ合っている気がしない美桜がさらに詰め寄る。

 「こんな高級なホテルで全部タダって…。さっぱり意味が分からないんだけど」
 「だってホントにタダなもんはタダなんだって。俺、今まで一回も払ったことないぜ。請求もされないし。他の客だってみんなそうだよ。って言っても一般客はいないけどね」

 (ダメだ、頭が痛くなってきそう)

 美桜はこめかみの辺りを指で押さえる。
 次に何を言えばいいのかも分からない。

 「んー、まあ普通のホテルだと思うから混乱するんだよ。ここはウォーリング家の、うーん、なんて言えばいいのかな。いわばおもてなしハウス?ってとこ」

 お・も・て・な・し、と、いつぞや流行ったフレーズを真似する仁に、美桜はもう体の力が抜けていく気さえする。

 「まあまあ、とにかくさ。お金のことは気にせず、楽しめばいいんだよ」
 「そういう訳にいかないよ!仁くんはそれでいいかもしれないけど、私はせめて少しでも払わないと気が…」

 しっ!と仁が急に人差し指を口に当てる。

 「声が大きいよ、美桜ちゃん」
 「あ、ごめん」

 いつの間にか、ホテルの廊下に戻っていた。

 (つい大きな声出しちゃった。部屋の中まで聞こえちゃったかな)

 そう心配していると、前方でがちゃりと誰かがドアを開ける音がした。

 (怒られるかな…)
 と身をすくめたが、そうではなかった。
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