桜のティアラ〜はじまりの六日間〜
 「あ!やっと帰ってきた」
 顔を出したのは絵梨だった。

 「美桜も仁も、今までどこに行って…」
 途中で言葉を止めて、絵梨はまじまじと美桜を見る。

 「えー!美桜?どうしたの、その格好。一瞬誰かと思っちゃった」
 「あ、うん。そうなんだ。着替えさせてもらって…」

 煮え切らない口調で美桜が言うと、絵梨は全く気にも留めず、
 「いいなー、美桜だけ。私も私もー」
 そう言って仁に詰め寄る。

 「はいはい。連れて行くよ。美桜ちゃん、すぐ先の右手にダイニングルームがあるからさ。そこで待ってて。もうすぐアレンが来ると思う」
 「うん。分かった」
 「あ、ドリンクとか、カウンターにあるから。適当に何か飲んでて」
 「はーい。行ってらっしゃーい」

 一応そう言って手を振ってみたものの、絵梨は一度も振り返ることなく、まだ美桜に声をかけている途中の仁の手を引いて、前のめりに歩いて行った。

 (あはは、仁くんたら引っ張られてる。気合い入ってるなあ、絵梨ちゃん)
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