桜のティアラ〜はじまりの六日間〜
(それにしても、高い天井。カーテンも大きいし)

クッキーも食べ終わり、ぼんやりと辺りを眺めていた美桜は、なんとなく立ち上がって窓際のカーテンに手をやった。

(分厚いし重ーい。しっかりした布。きっと外の冷たい空気を遮断するためね)

その証拠に、少し手を入れるとその内側は、ひんやりとした空気が溜まっていた。

(あれ?ひょっとしてこれ、扉になっているのかな?)

もう一枚掛けられているレースのカーテンを少しずらすと、ガラス窓が現れたが、よく見ると腰の位置にレバーがある。

美桜は二重のカーテンを左右に少し開くと、レバーを両手でぐっと下げてみた。

そのままゆっくりと前方に押してみる。ギーッときしむ音とともに、扉がゆっくりと開く。

(あ、バルコニーになってるんだ)

美桜はドレスの裾を少し持ち上げて、一歩外へ踏み出した。

とたんに、驚くほど冷たい風が吹きつけて、思わず身をすくめる。

(うわっ、寒い!)

慌てて扉を閉めようとしたが、ふと視界に入ってきた景色に手を止める。

(え、もしかして、星?)

 外は真っ暗で何も見えない、そう思ったのは最初だけで、よく見ると星が煌めいているのが分かる。

 しかも目が慣れるのに合わせてどんどん数が増えていく。

 (うそ、いったいどこまでが空なの?)

 上を見上げなくとも、真っ直ぐ前を向いていても無数の星が見える。

 それだけ視界を遮るものが何もないということだった。

 (あの真っ直ぐな横のラインは、ひょっとして、地平線?)

 それより下に星はない。ただ、そこを境に上を見渡せば、一面に数え切れないほどの星が燦然と輝いているのだ。

 「すごい…」

 美桜は、図鑑でしか見たことのない満天の星空が、こんなにも美しく今目の前に広がっていることに、ただただ言葉を失って立ち尽くしていた。
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