桜のティアラ〜はじまりの六日間〜
 「そう言えば、絵梨と仁は?」

 後ろ手にバルコニーの扉を閉めながら、アレンが尋ねてきた。

 「あ、今ね、ブティックに行ってる。絵梨ちゃん、さっきまで寝ちゃってて、一緒に行けなかったの」

 そう説明しながら、ようやく明かりの中でアレンの姿を見た美桜は、まじまじと見つめ直す。

 黒のジャケットは後ろが長くなっていて、タイトなパンツやロングブーツと合わせた正統派な装いだった。

 スタイルが抜群に良い。

 「アレン、背伸びた?」
 「うーん、どうかな?少し伸びたかも」

 いや、少しどころではないだろう。

 高校の制服姿しか思い浮かばないアレンが、別人のように思えてくる。

 (なんだろう、久しぶりなのもあるけど、なんだか知らない人みたいでそわそわしちゃう)

 次に何を話そうか考えていると、廊下から賑やかな声が聞こえてきた。

 聞き覚えのあるその声はだんだん近付いてくる。

 「あ、絵梨ちゃん達戻ってきたみたい」

 案の定、やがてご機嫌な様子の絵梨が顔を覗かせた。

 「美桜、お待たせー。じゃーん!どう?」
 「うわー、素敵!絵梨ちゃん。大人っぽい」

 でしょう?と絵梨は、得意気にくるっと回ってみせた。

 ブラックのマーメイドラインのドレスが、絵梨の細いウエストを強調して、ぐっと大人の女性の雰囲気を醸し出している。

 「なんだかテンション上がるわよねー。あ、アレン!」
 
 ようやく気付いてくれたと言いたげに、苦笑いを浮かべながらアレンが声をかける。

 「絵梨、久しぶり。いやはや、すっかり大人の女性だね」
 「そうなのー。ここのブティック最高ね!まだまだたくさん素敵なドレスがあったわよ。それにお部屋も最高!いいの?こんな高級な ところに泊めてもらっても」

 あ、それは絵梨ちゃん、あの…、と慌てた様子の美桜をよそに、
 「もちろん。思う存分堪能して」
 とアレンが笑いかけると、
 「ありがとう!アレン大好き!」

 絵梨がアレンに抱き付く。

 おいおい、と美桜の隣で小さく呟いた仁が、よっ!とアレンに片手を挙げる。

 絵梨に体を持っていかれそうになりながら、アレンも軽く手を挙げた。

 (男同士ってあっさりなのね)

 美桜は、二人がなんだか格好良く思えた。

 仲良し四人組の時間は、そんな風に賑やかに、以前と変わらない雰囲気で再び動き始めたのだった。
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