桜のティアラ〜はじまりの六日間〜
 さてと、これからどうしようと美桜は少し考えた。

 (ダイニングルームのドリンクコーナーは、いつでも使えるって仁くんは言ってたけど、こんなに朝早いとどうかな?)

 とにかく行ってみることにした。

 (あ!ちゃんと用意されてる!)

 二十四時間使えるように、きっと夜中も補充に来てくれているのだろう。

 美桜は有難くコーヒーをもらうことにした。

 ミルクを多めにして、クッキーをひとつソーサーに載せる。

 なんだかそれが自分の中の決まりになってきたみたいで、美桜はふふっと笑った。

 迷うことなくソファに向かい、カップをテーブルに置く。
 と、少し窓のカーテンが揺れ、冷たい空気が入ってきたのに気付く。

 (扉開いてる?換気でもしてるのかな?)
 
 それにしてもこのままだと寒すぎる。
 扉を閉めようとした時、美桜は外の人影に気付いた。

 「アレン!どうしたの?こんなところで」

 思わず大きな声を出してしまった。

 アレンはバルコニーの手すりに両手を載せて、そこに顔を突っ伏していたのだ。

 その後ろ姿は、なんだかとても寂しげに見える。

 「びっくりした…。美桜?」

 一瞬体をびくっとさせてから、アレンはゆっくりとこちらを振り返った。

 「ごめん、びっくりさせちゃった。どうしたの?こんな朝早くに」
 「ああ、うん。何でもないよ。ちょっと考え事」
 「なにもこんな寒いところで。風邪引いちゃうよ。さ、中に入ろう」

 そう言ってアレンの腕を取った美桜は、アレンの顔色が良くないことに気付く。

 「アレン。ひょっとして、寝てないの?」
 「あーうん。そうかな」
 「そうかなって!ちょっと!」

 美桜は急いでアレンを部屋の中に入れ、扉を閉めてからソファに座らせる。

 「徹夜した上に寒空の下で考え事なんて!体壊すよ」
 
 ブランケットをアレンの背中から掛けると、そのままドリンクコーナーに向かい、温かいココアとクッキーを持って戻る。

 「さあ、これ飲んで。体、温めないと」

 アレンは気分が乗らないような素振りを見せたが、美桜は仁王立ちで有無を言わせない。
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