桜のティアラ〜はじまりの六日間〜
 諦めたように仕方なく受け取り、ふうと少し息を吹きかけてからゆっくりとココアを飲んだアレンは、いくらかほっとしたようだ。

 「あったかいね」

 アレンが力なく笑う。

 「あったかいねじゃないよ、もう」 

 半分呆れたように言って美桜は腕を組んだ。

 (そういえば、夕べ仁くんと真剣にお仕事の話してたっけ。考え事って、そのことかな)

 たとえそうでも、体は大事にしないと!
 美桜は自分に頷くと、アレンに説教混じりに言う。

 「アレン、どんなに忙しくても寝なきゃダメよ。徹夜したって頭も体も動かなくなるばかりなんだから。いい?睡眠はきちんと取ること!」

 人差し指を立てながら美桜が言うと、アレンは叱られた子どものように小さく頷いた。

 分かったのなら良し、とばかりに美桜も頷く。

 (なんだか夕べのやり取りみたい。あの時と立場が逆ね)

 美桜は思い出してクスッと笑うと、再び真顔に戻った。

 「どうする?今からでも少し眠る?」
 「いや、それは。仕事に戻らないといけないし…」
 「うーん、じゃあお昼寝でもいいから、時間見つけて体休めてね。とりあえず今は朝食しっかり食べましょ」

 そう言うと、アレンはあからさまに嫌そうな顔をした。

 「えー、食欲ないよ」
 「ダーメ!少しでもいいから食べないと」

 美桜はもう一度ドリンクコーナーに行き、フルーツを選び始めた。

 と、ふいにダイニングテーブルの横の壁から、コンコンとノックの音が聞こえた。

 「はい」
 美桜がそちらを見ると、壁の一部が扉になっているそこから、グレッグが現れた。

 「おはようございます、美桜様」
 「おはようございます。ごめんなさい、物音で起してしまったかしら」
 「いえ、とんでもない。隣の部屋で朝食の準備をしておりました。美桜様、少し早いですが召し上がりますか?」
 「ええ!ちょうど良かった。今アレンにも何か食べさせなくちゃと思ってたの」

 そう言うと、グレッグは意外そうな顔をした。
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