桜のティアラ〜はじまりの六日間〜
 「少し空も明るくなってきましたね。カーテンを開けておきます」

 そう言ってグレッグは、ソファに場所を移して食後のコーヒーを飲んでいたアレンと美桜の横のカーテンを、丁寧に開けた。

 ありがとうと窓の外に目を向けた美桜が、急に手を止め、ん?と首を傾げる。

 「何?どうかした?」
 アレンは不思議そうに美桜の目線を追う。
 「あれって、お庭?」

 緑の木々が少し見えるのだが、そんな単純なものではないような気がする。

 美桜は立ち上がると、扉を開けてバルコニーに出た。

 手すりのところまで進むと、眼下には緑の木々によって作り出された綺麗な模様が、まるで絵画のように浮かび上がっている。

 夕べもさっきも、暗くて気が付かなかったのだ。

 「うわー、すごい!芸術的ね」

 美桜の感嘆の声を聞いて、隣に並んだアレンが説明する。

 「ああ。フランス式の庭園だよ。左右対称だったり、幾何学的に配置するのが特徴かな。模様に合わせて、植栽も人工的に整形される」
 「フランス式なのね。そういえば世界史の資料集で見た気がする。ヴェルサイユ宮殿とかの庭園もそう?」
 「うん、そうだね。あとはロワール渓谷のヴィランドリー城なんかも有名」
 「へえ、そうなんだ。色々な所にあるのね。それぞれ城主が庭園の造りや豪華さを競い合っていたとか?」
 「まさにそうだよ。権力の象徴みたいにね。そんな人工的な庭園に反して、自然の景観とか風景を生かしながら、そのままの美しさを大事にしたのが英国式庭園なんだ」
 「あ!イングリッシュガーデンね。日本でも行ったことある。バラが咲き乱れて綺麗だったなあ」

 美桜はもう一度目の前の庭園をしみじみと眺めた。

 「庭園一つとっても、違う国同士影響を受け合っているのね。そう思うと日本は、独自のものが多いわよね。日本式の庭園も他では見ないし。影響されながら進化していくものと、独自のスタイルをずっと貫くもの…。どちらも素晴らしいことよね。文化や芸術って」

 なんだか神妙な面持ちの美桜を覗き込むようにして、アレンがクスッと笑った。

 「美桜がここまで庭園に熱心だとは知らなかったよ。良かったらこれから一緒にうちに来る?これよりもう少し大きいフランス式の庭園と、あとイングリッシュガーデンもあるよ」
 「え!ほんと?うわー見てみたい!いいの?」
 
 美桜の顔がぱっと明るくなる。
 (決まりだな)
 嬉しそうな美桜を見て、アレンはもう一度クスッと笑った。
< 44 / 238 >

この作品をシェア

pagetop