桜のティアラ〜はじまりの六日間〜
 再びメアリーの勢いに呑まれて美桜は立ちがる。

 メアリーが用意してくれたのは、サーモンピンクのドレスだった。
 着てみると、丈は床より少し上なので、歩きやすそうだ。

 美桜が足元を見ながら裾をつまんだりしていると、まあ!とメアリーが驚きの声を上げた。

 どうしたのかと顔を上げると、鏡の中の美桜を見たまま、メアリーは両頬に手を当てて固まっている。

 「メアリー、どうかした?」
 「あ、いいえ。なんでもありませんの。さ、ではエントランスに向かいましょう」

 腕時計を確認してから、メアリーはクローゼットの靴を選んで美桜に履かせ、廊下に出た。

 「なんとか間に合いそうですわ」
 「うん。ごめんね、急がせてしまって。ありがとう」

 エントランスへの道を急ぎながら美桜はお礼を言う。

 「とんでもない!私の方こそ、ばたばたとお見苦しくてすみませんでした。パレスにいらっしゃると聞いて、つい焦ってしまって」
 「あ、そうだ、その、パレスって…」
 「まあ。もうアレン様がお待ちですわ!」

 (うっ、また聞きそびれちゃった)
 
 階段の上から下を見ると、ちょうど入口の前で、グレッグが広げたコートにアレンが片腕を通すところだった。

 「お待たせして申し訳ありません。美桜様のお支度整いました」

 美桜より先に階段を下り終えたメアリーが声をかけると、アレンとグレッグは同時にこちらを見上げた。

 と、そのとたん、中途半端な格好のままピタリと二人の動きが止まる。

 (あら、どうしたのかしら。アレンったらコートに左腕だけ入れて固まってるし)
 
 その滑稽さに、もしかして本当に時が止まっているのかと、美桜はパチパチ瞬きした。

 「あの、二人ともどうかした?」
 「あ、いや。別に」

 二人は同時に動き出し、ようやくアレンはコートをきちんと着る。

 「さあ、美桜様もこれを。外は寒いですわ」
 「ありがとう」

 メアリーに真っ白なコートを着せてもらい、出口に控えていたメイソンに挨拶して外に出ると、今度は美桜が動きを止めた。
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