桜のティアラ〜はじまりの六日間〜
 「わあ!すごい」

 メイソンの後ろにあるのは、車ではなく馬車だったのだ。

 おずおずと近づいてみると、思ったよりずいぶん高い。
 先頭には綺麗な毛並みの白馬が二頭、おとなしく待っている。

 「さ、行こう」

 感激している美桜をよそに、アレンはさっさと反対側に回って乗り込んだ。

 美桜も、高い位置の手すりを掴んで足を引き上げる。

 と、いきなり横にいたメイソンが両手を組んで差し出してきて、思わず踏みそうになった美桜は慌てて足を下ろした。

 すると今度はメイソンが面食らったような顔をする。
 どうやら、美桜の足を手で支えるつもりだったらしい。

 「大丈夫よ」

 そう言うと美桜は両手に力を込め、足を上に高く引き上げてはしご状の足載せにかけると、そのまま一気に体を引き上げて乗り込んだ。

 メイソンが慌てふためいて妙な動きになるのを見て、美桜はふふふと笑う。

 やれやれと言わんばかりに肩で溜息をついた後、メイソンは御者台へ回った。

 向かい側に座っているアレンが、どうかした?というように首を傾げてきたが、ううんと美桜は首を振る。

 アレンはまだ不思議そうにしながら、いつの間に持っていたのか、分厚い書類に目を落とし、それきり仕事モードに入ったようだった。

 やがて短い掛け声とともに、メイソンが手綱をさばく音がした。

 美桜はわくわくして前に身を乗り出して覗いてみる。

 メイソンとグレッグが座る前方に、白馬がゆっくり歩き出すのが見えた。

 ガコンと最初は衝撃があったが、やがて軽快な足並みになると、リズミカルな振動が美桜達にも伝わってくる。

 (わー!楽しい。馬車で移動なんて素敵)

 美桜は、行ってらっしゃいませ!と見送ってくれるメアリーに笑顔で手を振った。
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