桜のティアラ〜はじまりの六日間〜
 半円を描きながらアプローチの端まで来ると、馬車は一旦停止した後左へ曲がる。

 窓の外には、のどかな田舎の風景が広がっていた。

 (そう言えば、外の景色を見るの初めてかも)

 空港からここまではぐっすり眠っていたし、到着も夜だったことから、この辺りがどんな場所なのかまだ知らなかった美桜は、ぴたりと窓に顔を付けそうな勢いで、夢中で外を眺めた。

 道はとても広々としていて、今馬車が進んでいるのは車道の横、土のまま塗装されていない部分だった。

 しばらくは遠くに木々が見えるだけの風景だったが、やがて両側に家が見え始めた。

 ひとつ、ふたつ、と数えていたら、その後はぽつぽつと家や店が並び、やがて活気付いた街並みに変わっていった。

 朝の市場だろうか、何人かがテントの下で野菜や果物を並べているのが見える。

 (小さめのカラフルな屋根、可愛いな。どこのおうちも窓辺やポーチにお花を飾ってるのね。お母さんと子ども達、一緒に市場で買い物かしら。着ている服も可愛い)

 アレンの邪魔にならないように、一人心の中で興奮している美桜だった。

 小さな男の子がこちらに気付き、隣の母親に声をかけながら馬車を見上げて指を差している。

 美桜は、バイバーイと小さく呟いて手を振った。
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