桜のティアラ〜はじまりの六日間〜
 しばらくするとまたもとののどかな風景に戻り、美桜はひたすら遠くを眺める。

 向かい側のアレンといえば、全く周りのことなど気にしていない様子で、熱心に書類を読みながら何かを考えているようだった。

 どれくらい経ったのだろう。
 ずっと真っ直ぐ進んでいた馬車が、さっきようやく右に曲がったのだが、そこからは全くと言っていいほど景色が変わらない。

 さすがに退屈になってきた美桜が、控えめに声をかける。

 「ねえ、アレン。あとどのくらいで着きそう?」
 
 ん?と言って外の景色を確認してから、
 「もうじき着くよ。もう敷地内には入ってるから」

 そう言うとアレンは再び視線を書類に落とす。

 (え?敷地内?どういうこと?)

 聞き返したかったが我慢して、美桜は外を見ながら考える。

 (さっき馬車が右に曲がった時、大きな門をくぐったけど、もしかしてそこからってこと?)

 思い出してみれば、その時門の横で敬礼していた衛兵さんの様な格好の人がいたっけ。

 (じゃあやっぱりそこからアレンのおうち、というか敷地なの?)

 まさかそんなことは…、と考えを打ち消そうとした時、着いたよ、とアレンがふいに言う。

 え?と慌てて窓から外を見ると、ゆっくり右にカーブを描きながらスピードを落とす馬車の左側に、大きな建物が見えてきた。

 (何これ、博物館?いや、美術館とか?)
 
 窓がずらっと並んだ三階建ての建物は、とにかく横に広く、大きな噴水を右手に見ながらようやく馬車が止まったところには、これまた大きなエントランスがあった。

 「さ、降りて」

 そう言い残してアレンはサッと飛び降りた。

 「あ、ちょっと待って」

 慌てて美桜も続こうと足を踏み出すと、メイソンが下で待ち構えているのが分かる。

 「大丈夫だってば」
 
 美桜はそう言うと、わざと遠くの方に飛び降りる。

 メイソンはまたしても、妙な動きをしただけだった。

 メイソンを振り返りふふっと笑っていると、アレンに名前を呼ばれ、美桜は急いで後を追う。

 グレッグが開けてくれているその巨大な扉から中に入ると、美桜は上を見上げて思わず息を呑んだ。

 二階まで吹き抜けになっているその天井には、煌びやかなシャンデリアが三つ、そしてその下には幅の広い大きな階段があり、まるでどこかの宮殿のようだった。

 (あ!だからパレスなのか!)

 ようやく腑に落ちたとばかりに美桜が頷いていると、
 「ようこそパレスへお越し下さいました」
 隣から誰かが声をかけてきた。
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