桜のティアラ〜はじまりの六日間〜
 白いブラウスに紺のロングスカート、深々と丁寧なお辞儀をする身のこなしから、よほど経験の長いメイドさんなのだろうと分かる。

 「あ、初めまして。美桜と申します」
 つられて美桜も神妙に頭を下げる。

 やがてゆっくりと顔を上げたベテランらしきその女性は、美桜の顔を見るととたんに、今まで浮かべていた柔らかい笑みから一転、驚きの表情に変わった。

 (あれ?まただ。デジャヴ?)
 
 どうして今日は、こうもみんなに驚かれてしまうのだろうと、美桜は笑顔を浮かべつつ困惑する。

 するとはっとしたように慌てて彼女は頭を下げる。

 「申し訳ありません。失礼いたしました」
 「あ、いえいえそんな。大丈夫ですから」

 美桜が急いで声をかけていると、その様子を見ていたアレンがふいに呟いた。

 「へえ、クレアもそうなのか」
 
 なんのことだろうと美桜が振り返ると、アレンの隣でグレッグも頷いている。

 はて?ますます分からない。

 「美桜、申し訳ないんだけど、俺はこれから仕事があって庭園に行けそうにないんだ。代わりにクレアが案内するから、好きなだけ見ていって。帰りはメイソンが送っていく」
 「うん、分かった。ありがとう」

 美桜がそう言うとアレンはじゃあと手を挙げ、グレッグと何やら話しながら階段を上り終えると、やがて右側の通路へと姿を消した。

 「あの、美桜様、改めて先程は失礼いたしました。(わたくし)は長年このパレスに勤めるクレアと申します」
 
 気付けば二人きりになっており、美桜は再びよろしくお願いしますと頭を下げた。

 クレアは、自分達よりも二回り、いや三回りほど年上に見える、恰幅の良い女性だった。

 頼りがいのある、それでいて親しみやすい笑顔を浮かべた、優しいおばあちゃんのような雰囲気だ。

 (なんだか仲良くなれそう)
 美桜は直感的にそう感じた。
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