桜のティアラ〜はじまりの六日間〜
 (明るい陽射したっぷり。気持ちいいなあ、このお部屋)

 庭園をご案内する前に、まずはお茶を用意致しますねとクレアは言いながら、美桜をこの部屋に案内してくれた。

 エントランスの階段を上り、アレン達とは反対側の左に進むと、すぐまた階段を上がる。

 そこから長い廊下を歩いてようやく着いた部屋は、ある程度想像していたとはいえ、やはり広さと豪華さに目を奪われた。

 廊下と反対側の壁は一面窓になっており、直接バルコニーに出られるようになっている。

 部屋の中央には大きなテーブル、そして両端には立派なソファがそれぞれ置かれている。

 かといって、重々しい雰囲気ではなく、明るく気持ちの良い空間だ。
 きっと壁紙や家具の色合いがそうさせるのだろう。

 「さあ!美桜様、そちらのソファへどうぞ」
 「ありがとう」
 
 促されて座ると、クレアは次から次へと綺麗なカップやお皿、ポットを並べ始める。

 いったい何が始まるのかと思うほどの数だ。

 「え、あの…」
 
 戸惑う美桜をよそに、クレアはワゴンを押してきて嬉しそうに言う。

 「私もう嬉しくって。だってお客様をおもてなしするなんて、久しぶりで久しぶりで。朝、連絡を受けてから、それはもうウキウキしていましたの」
 
 そんな大げさな、と美桜は心の中で呟いたが、クレアは心底楽しそうだ。

 「さあ、どうぞ!」
 そう言って、大きな楕円形のプレートを美桜の前に置く。

 「うわー、おいしそう!」
 
 一口サイズのケーキやクッキー、ゼリーやムースなどが、まるで宝石箱のように綺麗に並べられている。

 「まだまだありますわよ、こちらもどうぞ!」
 
 そう言ってクレアが張り切って見せてくれた別のプレートには、スコーンやサンドイッチ、フルーツが豪華に盛られている。

 「こちらのホイップクリームやジャムを添えてお召し上がり下さいね」
 「ちょ、ちょっと待って!」
 
 たまらず美桜はストップをかける。

 「あの、一人でこんなにたくさんは…。良かったらクレアさんも一緒にいかがですか?」
 
 とたんにクレアは戸惑いの表情を浮かべる。

 「ええ?まさかそんな。お客様とご一緒になんて」
 「だって誰かと一緒に食べた方がおいしいでしょう?それに私、お客様ではなくてアレンの友人ってだけだし」
 「そう仰られても…。メイドがご一緒になんていけませんわ」
 「大丈夫よ。だって他に誰もいないし。ね?さあ」
 
 美桜はクレアの腕を引いて強引に隣に座らせると、いくつかケーキやスコーンを取り分けた。

 「じゃあいただきましょう!」
 
 小さなイチゴのショートケーキを一口で頬張ると、おいしい!と美桜はクレアに笑顔を向ける。

 ほら、と促されてクレアもおずおずと口に入れた。

 「まあ、本当においしいですわ!」

 でしょ?となぜか美桜が得意気に言い、二人で顔を見合わせて笑い出した。
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