桜のティアラ〜はじまりの六日間〜
 「グレッグったら、時代劇とかサムライ映画を観て勉強したんですの。そしたら、ふふ、すっかりサムライのような言葉使いになって。拙者に全てお任せ下され、なんて言ってましたわ。ゆりえ様は、それはそれは面白そうに笑ってらして。私も今ならその面白さが分かりますわ」
 
 確かにそれは面白いと、美桜も想像しながら笑ってしまった。
 
 けれど良く考えてみれば、ここまで上達するには相当の努力が必要だっただろう。

 そう言うとクレアは首を横に振った。

 「いいえ、私達は楽しんで勉強しましたわ。だってゆりえ様が喜んで下さるから。誰も辛い思いをしながら覚えた訳ではないのです」
 
 それだけみんなに慕われていたという事なのだろう、アレンのお母様は。

 「ゆりえ様との思い出は決して忘れません。あれからもう十二年ですわね。私達、その後も日本語を話す癖が抜けなくて。さらに上達しましたわ」
 
 そう言って、クレアは少し笑う。
 
 あれから十二年、ということは、アレンは当時まだ十歳だったのか。

 辛かっただろうな。
 そんなにも優しいお母様がいなくなって。
 
 美桜は思わず手元の紅茶に視線を落とした。
 と、ふいにクレアが話しかける。

 「美桜様、今日の美桜様のお支度はメアリーが整えたのですね?」
 「ええそう。時間がない中、急いでヘアメイクをしてくれたの」
 
 そうですか、とクレアは頷きながら、またどこか遠い目をした。
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