桜のティアラ〜はじまりの六日間〜
 仕事中だぞ!といつものごとくたしなめられると思いきや、ジョージは窓の外を見つめるばかりだ。

 「ゴホン。どうかしましたか?父上」
 
 しれっと言い直しながら隣に立って、何を見ているのかとその目線を追う。

 眼下に広がる庭園の真ん中、噴水の近くに美桜とクレアの姿が見えた。

 約束通りクレアが案内しているのだろう。

 二人は時折顔を見合わせて笑い、楽しそうな様子が伝わってくる。

 (それにしても美桜ってジェスチャー大きいなあ。子どもみたい)
 
 アレンが思わず笑みをこぼす横で、ジョージはこわ張った声を出した。

 「おい、アレン。これはいったいどういう事だ?あの人はいったい…」
 「ああ、彼女はですね」
 「…ゆりえ?」
 
 アレンはぎょっとして、窓に張り付いたままのジョージを見た。

 (ええ?まさか親父まで見間違うとは)
 
 もう一度美桜に目を向ける。今まで一度も美桜が母に似ていると思ったことはなかった。

 なのに今日の美桜は、誰の目にも母を思い起こさせるようだ。

 (そう言えば顔の輪郭とかが似てるのかな?いや、雰囲気とか佇まいとか、そういうのも似てるのかも)
 
 あれこれ考えを巡らせていたアレンは、隣で返事を待っているジョージの視線にようやく我に返った。

 「ああ、えっと、彼女は高校時代の友人です。仁達と一緒に日本から来て、今フォレストガーデンに泊まっています」
 「なんと!日本から?お前なぜパレスに泊まってもらわないんだ?」
 「え?いや、だって、単なる友人ですし…」
 「こうしちゃおれん!グレッグ!今すぐお客様との食事の準備を!」
 「はっ!」
 「いやいや、ちょっと待てって。親父、グレッグ!」
 
 アレンの引き留める声もむなしく、二人はいそいそと部屋を出て行った。
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