桜のティアラ〜はじまりの六日間〜
 「はあ、素敵ね。まるで不思議の国のアリスになった気分」
 「まあ、美桜様ったら」
 
 噴水の淵に腰かけてうっとり見上げる美桜の隣で、クレアは楽しそうに笑う。

 「だって見て!この庭園の模様。こうやって近くで見るとまるで迷路に迷い込んだみたい」
 「確かにそうですわね。木々は大人の背より高いですもの」
 「でしょう?私、あっちの端から無事に出て来られるかやってみようかしら。ぐるぐる巻きになってる所とか、難しそう。ん?アレン!」
 
 いつの間にかアレンがこちらに向かって来るのが見えた。

 「え?まあ、坊ちゃま!」
 そう言うとクレアは、すぐさま少し離れてアレンと美桜の様子を見守る。

 「どうしたの?アレン。お仕事は?」
 「ああ、うん。まあね。まだ途中なんだけど」
 
 アレンは言葉を止めて少し考える素振りをした。

 「どうかした?何かあったの?」
 美桜がちょっと心配そうに覗き込む。

 「いや、なんでもないよ。あのさ、美桜。これから親父が一緒に食事したいって言ってるんだけど…。いいかな?」
 「まあ!旦那様が?それは大変ですわ!」
 
 美桜が答えるより先にクレアがそう言うと、失礼しますと慌てて立ち去って行く。

 「え?クレア?何、えっとお食事?」
 「うん、そう。急にごめん。それにまだ十一時前だし。いいかな?」
 「それはもちろん、構わないけど」
 
 クレアのあの慌てようが気にはなるものの、美桜は頷いてアレンと部屋に戻った。
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