桜のティアラ〜はじまりの六日間〜
 「うちの学園のパンフレットって…。ひょっとして桜、ですか?」
 
 美桜が聞くと、ジョージは大きく頷いた。

 「パンフレットの表紙の、あの満開の桜。実際に入学式の日に見た時は、それはそれは感激しました。校門を入ってすぐ、その木が見えると、私は一歩も動けなくなってただ圧倒されて眺めていました。誰かと待ち合わせしているらしい女の子が立っていてね。ちょうどその時風が吹いて、桜の花びらがふわっと一気に舞い落ちたんです。桜吹雪の中で、髪を押さえながら花びらに手を伸ばしていたその女の子が目に焼き付いてね。それから毎日その子を探しました。もう一度桜の木の下で見かけた時は、思い切って声をかけました。まだ覚えたての日本語でね。ははっ」
 
 照れたように笑い、なつかしいなあと呟く。

 「その桜の彼女と私は、五年後に結婚しました」
 
 わあ!と美桜が思わず両手を口に当てて驚くよりも、さらに大きな声が部屋のあちこちで上がった。

 「ええー?」
 「なんと!」
 「んまあっ!」

 アレン、グレッグ、クレアも、皆一様に驚きのあまり固まっている。

 「おお、いかんいかん。ついうっかり話してしまったな。それじゃあ美桜ちゃん、私はこれで失礼するよ。この後もどうぞごゆっくり」
 「あ、はい。ありがとうございます」
 
 慌てて美桜も立ち上がり、もう一度握手する。

 「じゃあ、俺も…」
 「いや。お前はまだ美桜ちゃんのお相手をして差し上げなさい」
 
 アレンにそう言い残すと、ジョージは陽気に、じゃあねーと手を振りながら出て行った。
 
 と、ふうと誰からともなく溜息が漏れる。

 「初めて聞きましたわ、その…、旦那様と」
 「ああ、私もです。ゆりえ様との…」
 「うん、俺も聞いたことなかった」

 (どうやらお二人の馴れ初めは、ずっと秘密にしてこられたのね)
 
 美桜はそう思いながら、先程の話を想像してみた。

 「とってもロマンチックな出会いだったのね」
 
 美桜の言葉に、そこにいる誰もが頷いた。
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