桜のティアラ〜はじまりの六日間〜
 「ほー、お嬢様方もご一緒とは珍しいですな」
 「こんにちは。初めまして、絵梨です。こっちは美桜」
 こんにちは、と美桜も頭を下げる。

 「これはこれは。ようこそお越し下さいました。さあ、どうぞ中へ」
 「トムじい、今日もあれ、作ってくれる?」
 「もちろん、用意してありますとも」
 「いやったー!」
 
 仁に、何がやったーなの?と美桜が聞くと、まあすぐに分かるよとはぐらかされた。

 コテージの中には大きな木のテーブルがあり、その横はカウンターキッチンになっていた。

 「ココアでも淹れましょうかね」
 と言ってキッチンに入るトムに、美桜達は、手伝います、と続く。

 お湯を注いだカップをスプーンで混ぜてから、絵梨と二人でテーブルに運んだ。

 「アレン坊ちゃまもそろそろお呼びしましょうか」
 
 トムがそう言ったのは、皆がココアを半分ほど飲んでしまってからだった。

 「あ、ほんとだ。アレンがいなかったね」
 「やーれやれ、またかい?お嬢さん方。アレンが泣いちゃうぜ?」
 
 仁がまたもやあきれ声で言い、いや悪気はなかったんだけど、ついうっかり、と二人で言い訳する。

 「ま、ではみんなで呼びに行きますか」
 
 立ち上がってコテージを出ていく仁を、二人も追いかけた。
 が、裏側に回ったとたん馬がすぐ近くを駆けていって、思わず声を上げる。

 「うわ、びっくりした」
 「ほんと。でもかっこいいねー」
 
 柵で囲われた中を颯爽と駆けている栗色の馬は、細身の騎手と一体となって風のようだ。

 「絵になるねえ、それにしてもすごい速さ」

 うんうんと絵梨の言葉に頷いていた美桜は、もう一度騎手に目をやる。
< 68 / 238 >

この作品をシェア

pagetop