桜のティアラ〜はじまりの六日間〜
 「アレン、食事の準備が出来たよ。みんな待ってる」
 「分かった、すぐ行くよ」
 
 アレンを待ちながらふと遠くに目をやった美桜は、小高い丘の上に何かを見つけて首を傾げる。

 (なんだろう、あれ。大きな門かな?なんだか古い施設みたいな?)

 「どうかした?」
 馬を繋いでからやってきたアレンは、美桜の横に並んで同じように目線を上げた。

 「あ、うん。あれって何かなと思って」
 
 美桜が言うと、しばらく黙って丘を見つめていたアレンは、なぜだか再び丸太の階段を下りて馬を引いてきた。

 「アレン?」
 「さ、乗って」
 「ええ?」
 
 急に目の前に馬を連れてこられ、乗ってと言われても…、と戸惑う美桜だったが、アレンの様子がいつもと違うこともあり、素直に従うことにした。

 「よいしょっと。うわっ」
 
 階段の上からなのですんなり跨れたのはいいけれど、馬の上は想像以上に高くて少し怯んだ。

 続いてアレンも慣れた様子で跨る。

 美桜とアレンはかなり密着することになったが、よく見ると美桜が座りやすいように、アレンは半分立ったままだ。

 「しっかりつかまってて」
 そう言うとアレンは手綱をさばいて、一気に馬を走らせ始めた。

 「うわっ!」
 あまりの振動に美桜は思わずのけ反る。

 するとアレンが後ろから片手を回して、ぐっと美桜の腰を支えた。
 とたんに体が安定して、美桜は上手く体重を馬に預けられるようになり、肩の力を抜いた。

 (わー、なんだか楽しい!気持ちいいなあ)
 
 急に余裕が出てきて、顔だけ後ろのアレンを振り返り、にこっと笑いかける。

 アレンは一瞬面食らったが、無邪気な美桜の笑顔につられて、ふっと顔を緩めた。

 「もう少しスピード上げるよ」
 
 アレンがそう言うと、馬はますます飛ぶように丘を駆け上がる。

 「すごーい!風になったみたい」

 (このスピードを怖がらないなんて)

 「美桜って時々すごいよね」
 思わず呟いたアレンの言葉は届かなかったらしい。

 「ん?何か言った?」
 「いや、何も」
< 71 / 238 >

この作品をシェア

pagetop